不動産(土地や家)の相続手続きを完全網羅!!~費用や流れを解説~
目次
(1)不動産を相続する場合の手続きの流れや費用(相続税など)について
(2)不動産種別(土地、戸建て、マンション)の相続の手続きと相続税について
(5)まとめ
不動産を相続する場合の手続きの流れや費用(相続税など)について
相続は遺産分割から相続税の支払いまでを想定しなければなりません。
亡くなった人(被相続人)が残した財産を分ける場合、相続人間で話し合う必要があります。
また被相続人が一定以上の相続財産を保有していた場合には、相続税を納めなければなりませんので、相続開始時点から相続税の申告までの一連の流れを把握する必要があります。
相続財産の取得方法について、相続人間の話し合いで気を付けないといけない点が、不動産の分割方法。
不動産を相続する場合には、各物件ごとに所有者を決めなければいけませんし、所有者になった際は、不動産の名義変更の手続きが必要です。
不動産の名義は、変更手続きを行わないと、正式に所有者であると認められませんので、名義変更しないまま売却できません。
そして不動産を名義変更をする際には、登録免許税を支払うことになるため、納税資金の準備が必要です。
なお被相続人が一定以上の財産を残していた場合、相続税が発生します。
相続税は現金納付が基本であるため、相続した財産が不動産のみの場合、不動産を現金化するか相続人の預金から相続税を支払うことになります。
<不動産を相続する際のポイント>
・分割方法を話し合って決める
・名義変更をする必要がある
・不動産相続にかかる相続税の有無を確認する
実施事項①:不動産の分割方法を考える
不動産は、相続財産の中で大きな割合を占める財産です。
そのため「誰が・どの不動産を所有するか」によって、相続財産の取得割合が変わってきます。
また不動産の分割は相続時点だけではなく、相続後の土地の利用方法までを考慮しなければなりません。
そのため不動産の分割が難しい場合には、不動産を処分して金銭で分けることをも検討する必要があります。
なお不動産の分割方法は4種類ありますので、各分割方法について詳しくご説明します。
<不動産の分割方法>
・現物分割
・換価分割
・代償分割
・共有分割
方法①:現物分割とは
現物分割とは、相続財産をそのまま相続する分割方法です。
不動産であれば、被相続人名義の不動産を、相続人名義の書き換えることをいいます。
現物分割の特徴は、誰が何を相続したかがわかりやすく、相続による名義変更手続きもシンプルです。
たとえば相続人が3人、相続財産の土地が3か所ある場合、
・自宅は配偶者
・事業用の不動産は長男
・アパートは次男
など、相続人が各物件をそれぞれ取得することで、所有者が明確になるのも現物分割の特徴です。
一方現物分割の注意点は、不動産の数が少ない場合、相続人全員が不動産を取得できないケースがあります。
不動産は面積・形状・所在地域によって財産価値が大きく異なり、同じ面積の土地でも都心と地方の土地では財産価値や不動産の価値が違います。
そのため取得する不動産をめぐり、相続人間で揉める原因にもなります。
なお、現物分割がオススメできる相続のケースは、下記の条件を満たしいてる場合です。
・相続財産に不動産が複数存在する
・相続する不動産の価値が不均衡にならない
・相続人が取得する不動産に納得できる
現物分割で不動産を相続する場合、これらの書類を準備すると、話し合いがスムーズに進みます。
<不動産の現物分割で必要な書類>
・不動産の登記事項証明書
・固定資産税評価証明書
方法②:換価分割とは
換価分割とは、相続財産を現金化して相続人間で分割する方法です。
現物分割は不動産をそのまま相続人が承継しますが、換価分割は不動産を処分するのが特徴です。
主な相続財産が自宅のみの場合、一人の相続人が自宅を相続すると、取得した相続人以外は相続財産を得ることができません。
しかし換価分割は不動産を売却し、売却した資金を相続人で分ける方法であるため、相続財産が不動産のみの場合や、不動産を相続したくない人がいる相続で利用できる手段です。
換価分割の注意点としては、遺産分割のために不動産を売却して現金化する必要があるという点です。
相続人が引き続き自宅に住み続けたい場合や、相続物件を利用して事業を続ける予定がある場合には、換価分割の利用は難しいです。
また分割割合を決めるために、不動産の時価額の把握も必要です。
なお換価分割で不動産を相続する場合、以下の書類を準備すると、話し合いがスムーズに進みます。
<不動産の換価分割で必要な書類>
・不動産の登記事項証明書
・固定資産税評価証明書
・時価額が確認できる書類
方法③:代償分割とは
代償分割とは、特定の相続人が被相続人の財産を取得する代わりに、他の相続人に対して金銭を支払う分割方法です。
代償分割は、不動産の名義を取得したい相続人と金銭を取得したい相続人に分かれているケースで有効な手段です。
たとえば被相続人の相続財産が自宅のみの場合、その自宅に住んでいない相続人が財産を取得しても自由に利用・処分ができません。
一方で、被相続人の不動産に住んでいる相続人は、他の相続人がその不動産を相続すると、立ち退きや家賃を請求されることも考えられます。
そのためその不動産に住んでいる相続人は、自宅に引き続き住むために不動産を取得し、取得した対価(代償)として他の相続人に金銭を支払う方法が代償分割の活用手段です。
代償分割の注意点としては、相続財産を取得する相続人が支払う金銭は、相続人自身の預金から支払う必要があるという点です。
不動産を取得する相続人が、他の相続人に支払う金銭が無い場合、お金を借りなければ代償分割ができないこともあります。
また代償金の金額についても、相続人間で話し合いが必要となるため、相続税評価額(路線価評価)や時価額の確認が必要です。
なお代償分割で不動産を相続する場合、以下の書類を準備すると、話し合いがスムーズに進みます。
<不動産の代償分割で必要な書類>
・不動産の登記事項証明書
・固定資産税評価証明書
・路線価評価
方法④:共有分割とは
共有分割とは、一つの不動産を複数の相続人で取得する方法です。
不動産の所有者は1人ではなく、複数人で所有することが可能であり、所有割合は遺産分割の内容に沿って自由に変更できます。
そのため相続人が平等に権利を主有したい場合には、不動産名義を等分にすることも可能であり、相続人ごとに違う持ち分割合にすることも可能です。
共有分割の注意点としては、一つの不動産に対して権利を主張できる人が複数人存在することになるため、相続しても所有者1人の意思だけでは自由に不動産を利用できない点です。
たとえば不動産を貸付用として利用したい場合には、所有者全員の同意が必要ですし、1人の所有者が不動産を売却したい考えても、他の所有者が売却に反対すれば不動産を処分できません。
また不動産を売却する際、買い手が複数人の所有者であることを嫌がるケースもあります。そのため共有分割は、不動産の利用方法が明確な場合や、相続人の意思疎通ができている際に利用する分割方法です。
なお共有分割で不動産を相続する場合、以下の書類を準備すると、話し合いがスムーズに進みます。
<不動産の共有分割で必要な書類>
・不動産の登記事項証明書
・固定資産税評価証明書
実施事項②:不動産の名義を変更する(相続登記)
不動産の分割方法が決まりましたら、次に行うのは不動産の名義変更です。
相続取得後すぐに売却する場合でも、不動産の名義は1度、被相続人から相続人に変更してから売却することになります。
また不動産は登記手続きが必要で、登記手続きは法務局で行います。
なお不動産登記の名義変更を行わないと、第三者に不動産所有者としての権利を主張できません。
そのため被相続人名義のままで、不動産の売却や贈与はできませんのでご注意ください。
相続登記とは
相続登記を行う際は、法務局で不動産の登記手続きを行います。
不動産登記には登記する原因(理由)が必要で、主な登記原因は4種類です。
<主な不動産の登記原因>
・相続登記
・売買登記
・贈与登記
・建物表題登記
相続登記は、被相続人から相続財産を取得した際に行う登記方法です。
相続登記の手続き期限は法律上ありませんので、遺産分割協議を行わずに被相続人名義のまま、不動産を放置してもすぐに影響は出ません。
しかし相続登記は、相続後すみやかに行う必要があります。
なぜなら被相続人名義のまま不動産を売却・贈与することはできませんので、用途制限がかかるためです。
また不動産の分割協議しないで放置すると、いつか相続人が亡くなり、分割協議の開催が難しくなります。
相続人が亡くなると、相続人の地位は相続人の相続人(子など)が承継します。
そのため相続人の子が複数人いる場合、遺産分割協議に参加する人数が増えることに。
たとえば被相続人の相続人が、配偶者、長男、長女、次男の4人だった場合、4人で遺産分割協議を行います。
しかし長男が亡くなった場合には、長男の相続人が相続権を引き継ぎ、長男の相続人が複数いる場合には、遺産分割協議の参加者が増加します。
そして長男の相続人が全国各地に住んでいる場合には、分割協議を開催のために全員が集まる必要が出るため、相続登記は速やかに行いましょう。
相続登記には期限はありません。ただ相続登記がスムーズに行えるタイミングは、被相続人が亡くなった直後です。
そのため相続人同士が集まれる時期を見計らって、できるだけその時点で遺産分割協議をまとめ、そして登記名義の変更をする必要があります。
相続登記の手続きの流れ
不動産の相続登記をする場合には、5つの手順を踏みます。
<相続登記の手続きの流れ>
①登記原因(相続)の発生
②遺産分割協議の完了
③登記申請書の書類作成・添付書類
④登記申請・登録免許税の支払い
⑤登記完了
①登記原因(相続)の発生
不動産の名義変更は、名義が変わる理由(原因)が必要です。
また登記原因は、実際の事実に基づいた登記しかできませんので、相続登記は相続により取得する場合に用います。
②遺産分割協議の完了
不動産登記は、所有者の変更手続きであるため、所有者が変更となる根拠が必要になります。
相続登記の場合、新しい所有者を証明する書類として必要になるのが『遺産分割協議書』です。
遺産分割協議書とは、被相続人の財産を相続人がどのように分割したかを記載した書類で、相続人全員の署名捺印が必要です。
相続人のうち一人でも遺産分割に納得がいっていない場合、遺産分割協議書は作成できないため、相続登記も行えません。
なお被相続人の遺言書があり、その遺言書が有効と認められた場合は、遺言書に基づいての相続登記は可能です。
③登記申請書の書類作成・添付書類
不動産登記は、申請書を提出する必要があります。
また申請書を提出する際、添付書類が必要となり、書類が不足している場合には申請が受理されません。
④登記申請・登録免許税の支払い
不動産は法務局で管轄していますが、相続登記は不動産が所在する場所を管轄する法務局(支局)で手続きを行います。
相続登記には登録免許税が発生し、税金支払う人は新しい所有者となる相続人です。
また登録免許税は、不動産価額に税率を乗じて計算するため、不動産価値が高いほど納める登録免許税も多くなります。
そのため登記をする際には、事前にどのくらいの登録免許税を支払うかを計算し確認しましょう。
⑤登記完了
法務局に相続登記の申請を行っても、すぐに名義変更はできません。
法務局は、申請書を受理後内容を精査し、申請を許可するか判断します。
また相続登記が完了するのは、申請書を提出してから完了まで1週間くらいは必要です。
なお登記完了予定日は、各法務局で異なり、インターネット上でも登記完了予定日は確認できます。
相続登記に費用はかかる?
相続登記を行う際、税金などの費用が発生します。
また相続登記でかかる諸費用は、3種類ありますので、事前に必要となる費用を計算し、お金を用意する必要があります。
<相続登記で必要になる費用>
①相続登記の申請で使用する証明書
②登録免許税
③登記申請を依頼する際の報酬
①相続登記の申請で使用する証明書
相続登記には、被相続人および相続人の続柄を確認するために、戸籍謄本などの法的書類が複数必要になります。
また不動産の取得者が誰であるかを証明するために、遺産分割協議書の提示も必要です。
遺産分割協議には、相続人全員が同意したことを示すために署名捺印をしますが、印鑑は実印を押します。
そして実印を証明するための印鑑証明書は、相続登記の必要書類ですので、遺産分割協議に参加する相続人が多いほど、費用は多くなります。
なお戸籍謄本は、本籍地のある市区町村、印鑑証明書は住民票の所在する市区町村の役場で取得可能です。
書類の発行手数料は、1通200~500円程度なので、相続人全員分の書類を揃えても費用は1万円以内に収まります。
②登録免許税
登録免許税は、不動産登記を行う際に発生する税金で、対象不動産の課税標準額に税率を乗じた金額を支払うことになります。
<登録免許税の計算式>
登録免許税額 = 課税標準額×税率
不動産の課税標準額とは、固定資産税評価額であり、固定資産税評価額は不動産が所在する市区町村が算出している評価額です。
また固定資産税評価額は、毎年支払う固定資産税納税通知書の書類の中に記載されていますが、書類が無い場合には、市区町村で「固定資産税評価証明書」を発行してもらうことも可能です。
なお登録免許税は登記原因によって税率が異なり、相続登記の税率は0.4%と、売買登記や贈与登記に比べて税率は低いのが特徴です。
土地の所有権の移転登記
内容 | 課税標準 | 税率 |
軽減税率 (措法72) |
---|---|---|---|
売買 |
|
1,000分の20 | 令和3年3月31日までの間に登記を受ける場合1,000分の15 |
相続、法人の合併又は共有物の分割 |
|
1,000分の4 | - |
その他 (贈与・交換・収用・競売等) |
|
1,000分の20 |
出典:登録免許税の税額表(国税庁)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm
③登記申請を依頼する際の報酬
登記申請を代理で依頼する場合には、司法書士などに依頼することになります。
司法書士に依頼した場合の報酬は、5万円~15万円程度が一般的ですが、土地の種類や筆数、手続きの依頼内容によって報酬金額は異なります。
なお同じ不動産登記でも、報酬金額は司法書士によって異なります。
相続登記に必要な書類とは
相続登記で必要な書類は、戸籍謄本や住民票など市区町村から取り寄せる書類がほとんどです。
また戸籍謄本は相続人の人数や続柄、死亡した事実を確認するために使用しますので、出生時から死亡までを記した戸籍謄本が必要になります。
そのため本籍地を移している場合には、前の本籍地の戸籍謄本も必要です。
なおマイナンバーカードを取得している場合、コンビニの専用端末から住民票や印鑑証明書を取得できますので、ご活用ください。
(対応しているマルチコピー機等がコンビニに設定してある場合に限る)
必要書類 | 入手先 |
---|---|
被相続人の戸籍謄本 ※出生時から死亡時までの流れが確認できるもの |
被相続人の本籍地があった各市区町村 |
被相続人の住民票の除票 | 被相続人の住所のある市区町村 |
相続人全員の戸籍謄本 | 各相続人の本籍地がある市区町村 |
不動産を取得する相続人の住民票 | 相続人の住所のある市区町村 |
遺産分割協議書 | 相続人間で作成 |
印鑑証明書 (遺産分割協議書に押印したもの) |
印鑑登録をした市区町村 |
登記事項証明書 | 法務局 |
固定資産税評価証明書 | 不動産の所在する市区町村 |
相続登記は自分(一人で)できるのか
相続登記は相続人自身で手続きすることは可能です。
相続人自身で手続きすれば、登記申請を代行してもらう報酬費用を節約できるため、相続にかかる支出を抑えることが可能です。
ただ注意しなければいけないのが、ほとんどの相続人は法務局に行ったことも、手続きしたこともないという点です。
たとえば相続登記を行う場合、不動産を管轄しているのは、その地域に所在する法務局です。
そのため相続人が住んでいる場所の近くにある、法務局で相続登記を行うことはできません。
また不動産登記の名義変更は、公に権利を主張する手続きです。
申請書類が一つでも不足していると、相続登記が完了しませんので、不足書類の指摘を受ければ、書類を集め再度法務局に足を運ばなければなりません。
とくに相続登記の場合、被相続人や他の相続人の戸籍謄本や住民票必要が必要となるため、売買登記などに比べて、申請に必要な書類は多いです。
何度も法務局に手続きするために足を運ぶ労力を考えると、最初から相続登記を専門家に依頼した方が、相続人の負担が軽くなるケースはあります。
そのため相続人個人で手続きする場合は、相続人の人数や相続登記をする不動産の数を踏まえてご検討ください。
実施事項③:不動産の相続にかかる相続税の有無を確認する
不動産を相続したら相続税がかかる可能性がある(相続対策で不動産の相続税評価は大幅に下げることが可能)
被相続人が一定以上の財産を保有していた場合には、相続する際に相続税の申告・納税が必要です。
相続税は、被相続人の相続財産全体に対しての総額を算出し、相続人は取得した相続財産の割合に応じて相続税を支払います。
不動産を相続した場合、相続開始した時点の相続税評価額を算出します。
たとえば土地の相続税評価額は、国税庁が公表している路線価方式または倍率方式を用いて計算し、路線価方式による評価額は時価額の80%と言われています。
また土地を相続した場合においては、相続税評価額を減額する特例制度が適用可能で、最大80%の相続税評価額が減額できます。
なお相続税には基礎控除額があり、被相続人の財産が基礎控除額以内であれば、相続税は非課税です。
<相続税の基礎控除額の計算式>
3,000万円+法定相続人の人数×600万円=相続税の基礎控除額
〇法定相続人が配偶者、子2人(計3人)だった場合の基礎控除額の計算例
3,000万円+3人×600万円=4,800万円(相続税の基礎控除額)
不動産の相続税評価額の計算方法は、建物と土地で異なります。
建物の相続税評価額は、固定資産税評価額です。
固定資産税評価額は市区町村が算出している評価額で、3年に1度評価額が変更します。
ただ建物は老朽化するため、基本的に固定資産税評価額が前年より高くなることはありません。
また建物は用途によって評価額が変わり、アパートなど建物を貸付用として利用していた場合には、相続税評価額が30%減額します。
一方、土地の相続税評価額は、路線価方式または倍率方式で計算をします。
路線価方式とは、国税庁が公表している路線価図に基づき計算する方法で、路線価図は道路に金額が設定されており、その金額に対して面積を乗じて算出。
また路線価方式では、土地の形状補正も行うため、同じ面積・同じ道路に接している土地でも相続税評価額が異なるケースがあります。
倍率方式は、路線価方式が利用できな地域に適用する方法で、固定資産税評価額に対し国税庁が定めた倍率を乗じて計算する方法です。
なお土地も建物と同様、用途によって、相続税評価額が減額されます。
たとえば貸付地として利用している土地の場合、借地権割合相当の金額が減額するため、借地権割合が60%の場合には、相続税評価額が60%減額する計算です。
借地権割合は地域によって異なり、都心部ほど借地権割合が高く、地方や市街地以外の場所の借地権割合は低いです。
そして土地の相続税評価額に対して適用できる特例が、『小規模宅地等の特例』。
小規模宅地等の特例とは、被相続人の自宅や事業用の敷地として利用していた土地に対して最大80%減額補正する特例制度です。
小規模宅地等の特例には種類があり、適用する制度や土地を相続する人によって特例要件が異なります。
そのため特例要件を満たさない相続人が土地を取得しても、小規模宅地等の特例は適用できないので注意してください。
<小規模宅地等の特例の主な種類>
〇特定居住用宅地等
・被相続人等の住んでいた自宅の敷地として利用した土地
〇特定事業用宅地等
・被相続人等の事業用(貸付用以外)の敷地として利用した土地
〇貸付事業用宅地等
・貸付用として利用していた土地
不動産の相続にかかる相続税の計算方法
相続税は取得した財産ごとではなく、被相続人の相続財産全体に対して課される税金です。
そのため不動産に対する相続税を計算する際には、相続税の総額を算出する必要があります。
<相続税の計算例>
・相続財産1億円(土地4,000万円)
・相続人3人(配偶者、子2人)
〇相続税の基礎控除額の計算
3,000万円+3人×600万円=4,800万円
〇相続税の課税遺産総額
1億円-4,800万円=5,200万円
〇相続税の税額計算
法定相続人 (法定相続分) |
法定相続分に応じた金額計算 | 相続税額 |
---|---|---|
配偶者 (1/2) |
5,200万円×1/2=2,600万円 2,600万円×15%-50万円=340万円 |
340万円 |
子A (1/4) |
5,200万円×1/4=1,300万円 1,300万円×15%-50万円=145万円 |
145万円 |
子B (1/4) |
5,200万円×1/4=1,300万円 1,300万円×15%-50万円=145万円 |
145万円 |
相続税の総額 | 630万円 |
〇不動産のみを取得した場合の相続税の金額
630万円×(4,000万円÷1億円)=252万円
相続税の税額は、法定相続分に応じて計算しますが、納める相続税額は各相続人が取得した相続財産の金額の割合に応じます。
設例の子Aの法定相続分は1/4(25%)ですが、子Aが不動産のみを相続した場合には、相続税額の総額の40%にあたる252万円を納めることになります。
不動産の相続に際して相続税以外でかかる費用はあるのか?
不動産を相続した時に支払う可能性がある税金は、相続税と登録免許税です。
不動産登記をする際には、登録免許税以外に戸籍謄本などの発行手数料や登記申請の代行費用が必要で、不動産を分筆する場合には分筆登記の手数料がかかります。
登記手続きは相続人でも行えますが、相続人自身で手続きをするのは少し難易度が高いですので注意してください。
登録免許税は、登記原因によって課される税率が違うため、誤って相続登記以外の登記原因により登記を行うと、余計な税金を納めることになります。
また換価分割で不動産を売却する際には、売却利益に対しての譲渡所得税にも注意しなければいけません。
不動産譲渡税は不動産を売却した人に対して課されますが、換価分割のために不動産を売却した場合には、売却金額を取得する相続人がそれぞれ確定申告をする必要があります。
そのため不動産を売却して手元にお金が入っても、譲渡所得税を納めるお金は残しておかないと納税ができなくなります。
あと相続取得後以降に支払う税金としては、固定資産税(都市計画税)があります。
固定資産税は、毎年1月1日時点の不動産所有に対して課される税金であり、被相続人が年の途中で亡くなった場合には、翌年の固定資産税から名義人として税金を支払うことになります。
また相続税や登録免許税は、相続した際だけ支払う税金なのに対し、固定資産税は不動産の所有である限り毎年支払う税金です
最後に不動産の購入や贈与の際に支払う不動産取得税ですが、相続取得の際は不動産取得税を支払う必要がありません。
不動産取得税は都道府県が管轄する税金であり、自宅を購入した場合などは不動産の評価額に応じて税金が課されます。
ただ相続で不動産を取得した場合、不動産取得税は非課税となっていますので、相続時に不動産取得税を考えなくて大丈夫です。
不動産種別(土地、戸建て、マンション)の相続の手続きと相続税について
建物と土地の相続税評価額の計算方法についてご説明しましたが、次に不動産の種類別の相続手続きと相続税の計算のご説明をします。
相続財産の不動産は大きく、3種類に分類されます。
・土地
・戸建て(土地・建物)
・マンション(土地・建物)
自宅は、建物と土地で構成されています。
被相続人名義の自宅が建物だけであれば建物の名義変更だけを行いますが、土地も被相続人の名義であれば、建物・土地両方の手続きが必要です。
また建物と土地を別々の相続人が取得した場合には、相続以後の利用に不便が生じたり問題が発生するケースがあります。
そのため戸建て物件を相続する場合には、不動産を相続する人や相続する人数も考慮しなければいけません。
マンションは建物部分だけが相続財産だと思われがちですが、マンションにも土地の権利は存在します。
したがって相続税の計算をする際は、マンションの敷地部分の計算も必要です。
土地のみを相続する場合のチェックポイント
土地を相続する場合の手続きや方法
土地を相続する際には、遺産分割協議書を作成し、登記手続きを行うことで土地の所有者となります。
遺産分割協議書は、被相続人の財産を「誰が・何を」取得するか記載した書類であり、遺産分割協議書が無いと、相続登記はできません。
(遺言により財産取得者の指定がある場合を除く)
また土地を相続する際は、相続以後の利用方法までを考える必要があります。
単独相続であれば、相続以後その土地を自由に利用できますが、共有分割の場合には取得した相続人の合意が無いと土地の処分ができません。
また相続財産が土地のみの場合には、土地を取得しない相続人に対して金銭を支払う(代償分割)の選択肢もあります。
そのため被相続人の財産の種類や状況に応じて、土地の分け方は変わります。
土地の相続にかかる相続税と計算方法
土地の相続に対しての相続税を計算する際には、まず土地の相続税評価額の計算が必要です。
土地の相続税評価額は、路線価方式または倍率方式で計算を行い、評価額は時価の80%とされています。
そのため相続財産の金銭を不動産に変えることで、相続税を節約する方法も節税手段として存在します。
一方、路線価方式とは、国税庁ホームページに掲載されている路線価図を用いて計算する方法です。
土地が接している道路に金額(路線価格)が設定されており、路線価格に土地の面積を乗じて金額を算出します。
また路線価方式の場合、土地の形状も評価額に影響します。
角地や複数の道路に接している土地は利用価値が高くなる一方、台形の形状の土地や面積が小さい土地については、利用価値が下がるため、相続税評価額の減額対象です。
また土地の面積が大きい場合には、広大地評価の対象となり、大幅な相続税評価額の減額も見込めます。
一方倍率方式とは、市区町村の固定資産税評価額に国税庁ホームページで公表されている倍率を乗じて計算する方法です。
路線価方式と倍率方式は選択制ではなく、地域によって計算方法は決まっていますので、路線価図や倍率表で評価方法を確認する必要があります。
なお路線価方式・倍率方式で算出した土地の相続税評価額は、貸付用などとして利用している場合、相続税評価額の減額補正が適用可能。
そして小規模宅地等の特例制度を利用することで、最大80%相続税評価額を減額できるため、土地の相続税評価額の計算を適切に行わないと、納める相続税の金額に大きな影響を及ぼします。
土地の相続における注意点
土地を単独で相続する場合、取得する相続人の意思で土地を処分したり、土地の上に建物を建てることが可能です。
しかし所有者が複数人いる場合、土地を売却したり贈与するには、土地所有者全員の同意が必要です。
複数人で土地を相続すると、1人でも売却などに反対する相続人がいれば、自由に土地を利用できなくなります。
また相続税においては、土地の相続税評価額の計算が非常に重要です。
土地の相続税評価額は、数百万円から数千万円になることも珍しくありません。
そのため相続税評価額が1割変わるだけで、相続税が100万円単位で増減することもあります。
また土地の形状が長方形や正方形であれば、難しい補正処理は不要ですが、台形や三角形の土地については、減額補正の計算が必要です。
土地の補正計算は、ほとんどが相続税評価額を減額する計算なので、正しく計算しないと余分に相続税を納めることになります。
戸建て物件を相続する場合のチェックポイント
戸建てを相続する場合の手続きや方法
戸建て物件は、建物と土地に権利が存在し、登記手続きはそれぞれ行う必要があります。
遺産分割協議書には、建物取得者と土地取得者が誰であるかを明記しないと相続登記は行えません。
そして相続登記をする際の登録免許税は、建物・土地それぞれに課されます。
建物と土地は別々の相続人が取得することも可能ですが、土地を相続した人は土地の上に建物が建っているため、土地を自由に処分できません。
一方建物を相続した人は、土地所有者から地代を請求されるケースもあり、それが原因で相続人間の仲が悪くなる事例もあります。
なお土地を借り、その土地の上に建物を建てている場合には、借地権の手続きも必要です。
借地権とは、土地所有者から土地を借り、その土地に建物を建てれる権利です。
借地権は相続登記をする必要はありませんが、土地所有者に対し借地権者が変更になった連絡をしなければなりません。
戸建てを相続にかかる相続税と計算方法
戸建てを相続した際には、建物と土地の相続税評価額の計算が必要です。
建物の相続税評価額は、市区町村の固定資産税評価額を用いますので、難しい計算はありません。
また戸建て物件をアパートや賃貸物件として貸し付けている場合には、建物の相続税評価額から借家権相当の30%が減額されます。
一方戸建ての敷地の計算方法は、土地のみを相続する場合と計算方法は原則同じで、物件が所在する場所によって、路線価方式または倍率方式で計算します。
路線価方式の場合には土地の形状を加味しますが、倍率方式は固定資産税評価額に倍率を乗じるだけで完了します。
なお戸建て物件を貸付用として利用している場合には、貸家建付地評価の計算をすることで、相続税評価額が減額しますので注意してください。
<貸家建付地評価の計算方法>
自用地評価額-自用地評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合=貸家建付地評価額
※借地権割合は地域によって異なり、適用する借地権割合は路線価図に掲載されています。
※借家権割合は全国一律30%です。
〇貸家建付地評価の計算例
・自用地評価額1億円
・借地権割合60%
・借家権割合30%
・建物すべてを貸している
1億円-1億円×60%×30%×100%=8,200万円(18%相当の相続税評価額が減額)
戸建て物件の敷地に対しては、小規模宅地等の特例制度を利用すること可能であり、特例適用で最大80%土地の相続税評価額を減額できます。
ただ小規模宅地等の特例は、相続以後の保有・継続要件があり、要件を満たさないと特例適用はできません。
戸建てを相続における注意点
戸建てを相続する場合、建物と土地の相続手続きが必要になりますが、土地と建物の所有者が異なる場合、争いの原因となります。
建物と土地が同一名義の場合には、所有者が物件を自由に利用・処分できます。
また建物と土地の名義が別々の場合でも、土地所有者が了承すれば、建物所有者に土地を無償で貸すことも可能です。
ただ親族間でも地代を支払うケースがありますので、建物と土地を別々の相続人が取得する際は、地代の有無も含めて話し合う必要があります。
なお被相続人の自宅を相続する際、2020年4月1日(令和2年4月1日)から施行される『配偶者居住権』も考慮しなくてはいけません。
配偶者居住権とは、配偶者が被相続人と一緒に住んでいた物件については、被相続人が亡くなった後も配偶者が住み続けられる権利です。
施行以前は、遺産分割協議によって自宅の権利を配偶者以外が取得した場合、配偶者は賃料の支払いや立ち退きを求めれるケースがありました。
しかし令和2年4月1日以降は、相続後の所有者が配偶者以外であっても、配偶者が物件に住む権利が与えられます。
そのため配偶者以外の相続人が配偶者の住む自宅を相続しても、配偶者は引き続き居住できるため、すぐに自宅を売却することはできなくなりますので、遺産分割協議で相続財産の分け方を入念に話し合うことが必要です。
なお借地権を相続した場合には、土地所有者に連絡し借主の名義を伝える必要があります。
借地権の契約書を再度結ぶ必要はありませんが、不安がある場合には相続合意書や名義変更の覚書などの書類を作成すれば、トラブルが発生した際に対処可能です。
マンションを相続する場合のチェックポイント
マンションを相続する場合の手続きや方法
マンションには、戸建て物件と同様に建物部分と土地部分の権利があります。
ただ戸建て物件と違い、土地部分のみを相続しても使い道がありません。
そのため建物部分と土地部分を分けず、同じ所有者が相続するのが一般的です。
またマンションに複数の部屋を所有している場合には、一部屋(登記区分)ごとに相続する人を決めます。
そして時価額が戸建て物件とマンションでも、マンションの方が相続税評価額が低いケースが多いです。
そのため戸建て物件よりもマンション相続した方が、納める相続税が少なくなることもあります。
マンションの相続にかかる相続税と計算方法
マンションを相続した場合には、建物と土地、それぞれの相続税評価額の計算が必要です。
マンションの一区画(一部屋)を相続した場合、一区画部分の固定資産税評価額が建物の相続税評価額となります。
一方、マンションの敷地部分については、土地のみや戸建て物件と同様に路線価方式または倍率方式で計算しますが、マンションが建築している地域の多くは路線価地域です。
またマンションの土地は、敷地権割合が設定されており、マンション全体の面積に敷地権割合を乗じたのが、所有面積となります。
<マンションの敷地の計算例>
・マンション全体の敷地 5,000㎡
・敷地権割合 50/10,000
5,000㎡×(50/10,000)=25㎡(マンションの敷地権)
※高層マンションの敷地権は、建物面積よりも狭いケースが一般的です。
また敷地部分の相続税評価額は、一度全体の相続税評価額を計算し、その金額に対し敷地権割合を乗じて相続税評価額を算出しされます。
なおマンション全体の相続税評価額を正確に計算するためには、マンションの敷地面積およびマンション敷地の図面が必要です。
土地の対象面積が広大な場合には減額補正を行いますが、概算で算出した評価額と土地の広さや形状を加味した場合の評価額では、相続税評価額が2~3割程度違うこともあります。
マンションの相続における注意点
戸建て物件の修繕は所有者の判断で行えますが、マンションの修繕は一人の所有者の一存で修繕できません。
建物の修繕は、マンション管理組合が毎月修繕積立金を集め、数年~10年に1度マンション全体を修繕します。
そのためマンションを相続した際は、管理費を負担することになります。
また建物が老朽化するとその分管理費用も高騰するため、住む予定のないマンションを取得した際は、貸付用として利用するか売却処分も選択肢に。
ただ賃貸用として貸し付けた場合は家賃収入が不動産所得、マンションを売却した場合は譲渡所得の対象となります。
所得が発生した場合には、自身の他の所得(給与所得や年金)などと併せて、確定申告が必要となりますので、ご注意ください。
小規模宅地の特例とは
小規模宅地等の特例は、土地の相続税評価額を最大80%減額できる特例ですが、特例の種類は大きく3種類あります。
<小規模宅地等の特例の主な種類>
被相続人の事業(貸付業以外)
土地の用途 | 減額割合 | 限度面積 | |
---|---|---|---|
①特定居住用住宅地等
|
被相続人の自宅
|
80% | 330㎡ |
②特定事業用住宅地等
|
被相続人の事業 (貸付業以外) |
80% | 400㎡ |
③貸付事業用宅地等 |
被相続人の貸付業
|
80% | 200㎡ |
①特定居住用宅地等
特定居住用宅地等は、被相続人の自宅として利用していた土地に対し適用できる特例です。
特例が適用できる相続人は、配偶者や同居親族が一般的で、例外的に家なき子(自宅を所有していない子)も適用できるケースもあります。
また配偶者は土地を相続するだけで特例適用となりますが、同居親族は相続税の申告期限まで引き続き所有および、居住している必要があります。
そのため相続後、すぐに自宅を売却する場合や転居した際は、特定居住用宅地等の特例適用はできません。
②特定事業用宅地等
特定事業用宅地等は、被相続人の事業用の敷地として利用していた土地に対し適用できる特例です。
事業用とはアパート賃貸などの賃貸業以外をいい、コンビニや酒屋などを営んでいた場合に該当します。
また特例を適用できる相続人は、事業を承継する人です。
相続税の申告期限まで対象物件を所有し、事業を継続していることが特例適用要件であるため、相続と同時に事業を廃止した場合は特定事業用宅地等の制度は適用できません。
③貸付事業用宅地等
貸付事業用宅地等は、被相続人が賃貸用として使用していた土地に対し適用できる特例です。
アパートやマンション貸付の敷地として利用してた土地が対象で、駐車場に関してもコンクリートが敷いてある月極駐車場やコインパーキング等であれば、貸付事業用等に該当します。
また特例を適用できる相続人は、相続税の申告期限まで対象物件を所有し、事業を承継する相続人です。
そのため相続税の申告期限までに事業廃止や、不動産を売却した場合は、特例が適用できません。
なお小規模宅地の特例は、複数の物件に対して適用することが可能です。
また異なる種類の小規模宅地等の特例の併用も可能ですが、種類によって併用時の限度面積の計算式が変わりますので、注意してください。
<適用物件に貸付事業用宅地等がないケース>
特例の適用を選択する宅地等 | 限度面積の計算式 |
---|---|
①特定居住用宅地等 ②特定事業用宅地等 |
①≦330㎡ ②≦400㎡ 両方を選択する場合は、合計730㎡が上限 |
<適用物件に貸付事業用宅地等があるケース>
特例の適用を選択する宅地等 | 限度面積の計算式 |
---|---|
①特定居住用宅地等 ②特定事業用宅地等 ③貸付事業用宅地等 |
①×200/330 +②×200/400+③≦200㎡ |
小規模宅地の特例のポイント
小規模宅地等の特例を適用する場合、取得した人が被相続人と同じ用途として継続利用することが原則です。
たとえば被相続人の自宅を同居していた長男が物件を相続した場合には、相続税の申告期限まで所有し、引き続き住んでいることが要件です。
また貸付用として利用していた土地については、取得した相続人が同じ貸付用として事業承継することが要件となります。
そのため相続後に事業を廃止する予定の場合や、相続財産の分割の一環として不動産を売却する土地には小規模宅地等の特例は適用できません。
小規模宅地の特例の注意点
小規模宅地等の特例は、相続税の申告書を提出して適用できる特例あり、申告書を提出しない場合には、特例は適用できません。
また特例を適用するためには、特例を適用する土地の遺産分割が完了していることも要件でありため、未分割の土地に対して小規模宅地等の特例は適用できません。
そのため小規模宅地等の特例を適用する場合には、相続税の申告期限までに遺産分割を完了し、申告期限内に相続税の申告書と必要書類を提出する必要があります。
相続した不動産を売却する手順について
未利用の土地や、空き家となる実家を相続しても、利用しなければ維持管理費がかかるだけですので、売却も選択肢です。
また換価分割を行う場合には、相続不動産の売却が必要となりますので、売却する流れと注意点についてご説明します。
手順①:相続する土地を相続登記で名義換変更をする
不動産を相続した際に最初に行うべきは、不動産の名義変更です。
不動産を売却する場合、登記上の名義が被相続人のままだと売ることはできません。
また換価分割ですぐに不動産を売却する時であっても、一度被相続人から相続人への相続登記は必要です。
なお換価分割を前提とした相続登記の場合には、便宜上一人の相続人名義に変更しても問題ありません。
手順②:不動産屋に売却依頼をする
相続後すぐに売却する場合には、不動産屋に売却依頼をし、買主を探します。
相続人が買い手を探して不動産を売却することも可能ですが、買い手となる人に目星がついていない場合には、不動産屋に依頼するのが一般的です。
また不動産屋に売却依頼をすると、不動産屋のネットワークを通じて買主を探してくれるため、買い手が見つかりやすい利点があります。
買い手が見つかった場合、不動産屋が仲介役として売買契約書の作成などの手続きを行ってくれますが、報酬として仲介手数料を支払うことになります。
なお仲介手数料の報酬には、限度額が定められていますので、高額な報酬を請求された際は金額に注意してください。
<不動産仲介手数料の報酬限度額の計算式>
売却価格×3%+6万円+消費税=不動産仲介手数料
※売買価格が400万円を超える場合
手順③:買い手がつきやすい土地にする
相続に際してすぐに現金が必要になる場合、相続不動産を売却して現金を確保しなければなりません。
ただ不動産屋に依頼しても不人気の土地はすぐには売却できませんので、買い手がつきやすい土地を売りに出してください。
<買い手がつきやすい土地の特徴>
・人気のある地域にある土地
・整地されている
・適度な大きな
・正方形または正方形に近い長方形
・駅チカ
なお人気の高い地域にある土地でも、相場よりも売値が高ければ買い手はつきません。
一方あまり人気のない土地でも、割安の売値であれば買い手がつくケースもありますので、複数不動産を所有している場合には、不動産屋と相談して売却金額を設定してください。
手順④:不動産譲渡税を支払う
不動産を売却した場合、不動産譲渡税を支払うことになります。
不動産譲渡税とは、不動産の売却利益に対して支払う税金であり、赤字であれば納める税金は発生しません。
<不動産譲渡税の計算式>
売却金額-必要経費(購入金額+売却経費)-特別控除=譲渡所得
譲渡所得×税率=不動産譲渡税
なお相続で取得した物件の場合、購入金額や所有期間は先代から引き継ぐことになります。
そのため被相続人が5,000万円で購入した土地を4,000万円で売却した場合には、1,000万円赤字となりますので、不動産譲渡税はゼロです。
不動産の相続に関するよくある質問
不動産は相続財産の中で価値の高い財産の一つです。
不動産の分割方法で揉めるケースはよくあり、分割方法を間違えると相続以後の使用にも影響が出ます。
また不動産を取得する際に大変なのが、相続登記です。
日常生活で法務局を利用することはありませんし、登記手続きの経験がある相続人はほとんどいません。
また相続登記を行う際の必要書類などにも注意してください。
質問①:亡くなった親名義のままで家に住み続けることは可能ですか?
亡くなった人の名義のままの状態でも、違法ではありませんので、そのまま住み続けることは可能です。
しかし将来的に登記の名義変更は必ず行わなければいけません。
そのため相続人が健在のうちに手続きすることをオススメします。
質問②:父がなくなってから10年以上名義変更を行っていません。問題はありますか?
相続人が亡くなった場合、相続人の相続人が遺産分割協議に参加し、誰が不動産を相続するかを話し合います。
不動産の名義変更をしなくても日常生活に直接問題が出ることは少ないです。
ただお父様の相続人が亡くなると、相続人の相続人が遺産分割協議に参加しなければならないため、話し合いがより難しくなります。
また相続人のうち一人でも不動産の分割協議に参加しないと、不動産の名義変更はできませんので、お早めに名義変更を行ってください。
質問③:相続人が兄弟3人います。一つの不動産を3人の共有名義で相続登記することは可能ですか?
共有名義で相続登記することは可能です。
ただ共有名義にした場合、不動産を売却する時は共有者全員の合意が必要になります。
また相続登記する際は、不動産持分に応じて相続人が登録免許税を支払うことになります。
質問④:相続した不動産が地方にあります。私は都内に居住しているのですが、相続登記は都内で行うことはできますか?
登記の名義変更手続きは、不動産が所在する場所を管轄する法務局で行います。
そのため都内の法務局で田舎の土地の名義変更はできません。
なお郵送申請、オンライン申請をする際には、都内で手続きも可能です。
ただ不足書類がある場合には、申請が許可されませんのでご注意ください。
まとめ
不動産の相続手続きは相続人がすべて行うことも可能です。
ただ相続手続きには、多くの書類が必要であり、手続きごとに管轄の役所も異なります。
そのため司法書士に相続登記を依頼した方が、相続手続きの負担を軽減できます。
また一定以上の相続財産の場合には、相続税の申告手続きが必要です。
相続税は被相続人の相続財産全体に対して課税しますが、その際不動産は相続税評価額を算出しなければなりません。
相続税の申告・納税期限は、相続開始した翌日から10か月以内ですので、ご注意ください。
そして相続不動産を売却する際は、不動産屋に売却依頼を行い買主を探します。
買主が決まった場合には、不動産業者に仲介してもらい売買手続きを行います。
なお不動産を売却した場合には、譲渡所得税の支払いが必要に。
譲渡所得税は、売却した年の翌年2月16日から3月15日の期間中に手続きしなければなりません。
相続財産として不動産を取得する時にやるべきことは沢山あります。
相続人だけで手続きを完了させるとなると、手続き漏れやミスが発生することもありますので、相続手続きについては一度専門家に相談されることをオススメします。
この記事を担当した司法書士
トラスティ藤沢司法事務所
代表
山脇和実
- 保有資格
司法書士、宅地建物取引士
- 専門分野
-
相続・遺言・生前対策・民事信託・不動産売買
- 経歴
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司法書士事務所での10年の経験を経て独立し、トラスティ藤沢司法事務所の代表を務める。「相続は、亡くなった方の思いを推し量ろう」、「相続は、和をもって尊しとなすが大事」、「完全無欠な平等は不可能、遺産分けは互譲が必要」をモットーに、依頼者の内にある悩み要望を推し量り、顧客満足に繋がるよう努めている。また、勤務時代を含めて担当した相続・売買案件は3000件以上に上り、相談者からの信頼も厚い。