解決事例9
多額の財産を残した祖母が亡くなり、内容の不十分な遺言書を残していたケース
状況
被相続人:砂田香苗さん(仮名)
相続人:孫和男(亡長男の息子(仮名):日本在住)、孫洋子(亡長男の娘(仮名):アメリカ在住)
遺言書で財産を全部取得することになった孫和男(亡長男の息子(仮名):日本在住)からの依頼でした。
砂田香苗さんは、十年以上前にご主人を亡くされ、ご主人から相続した藤沢市内のアパートの賃料で生活していました。ご主人が残された遺産は、アパートの他預貯金も多額にあったため、何不自由なく暮らしていました。
齢80を越え、日頃から世話をしてくれていた孫和男に遺産を譲りたいと考え、遺言書を自己流で作成して孫和男に預けていました。
砂田香苗さんは、孫和男に看取られ、病院で亡くなりました。
孫和男より、当プラザに相続手続きの依頼があり、事情を聞くと、いくつかクリアすべき課題があることがわかりました。
<クリアすべき課題>
① 遺産が銀行預金だけでも10行以上あり、また証券口座も多数あり、遺産が多岐にわたっていた。
② 依頼者の孫和男が被相続人香苗さんの財産の詳細を知らなかったので、遺産の調査が難航しそうだった。
③ 遺産が多額にあり、相続税の申告が必要であった。
④ 遺産の他、アパートを建設した際に銀行から借りいれた負債があり、銀行との調整も必要になった。
⑤ 遺言書の記載内容が不十分で遺産の特定ができなかった。また遺言執行者の定めがなかった。
⑥ 相続人のうち、孫洋子はアメリカ在住であり、連絡がとれず、更に非協力的だったので、遺言の執行ができなかった。
当プラザの提案&お手伝い
(遺産の調査難航/相続税申告が必要)
当プラザは、税理士と司法書士の合同事務所のため、最初から税理士と協力して進めました。相続税の申告も必要となるので、遺産の内容を十分に把握することが必要です。孫和男から、被相続人香苗さんの家にあった銀行通帳、証券会社の報告書、固定資産税関係の書類、銀行との借り入れがわかる書類等々、遺産の存在を匂わす全ての書類と全部持ってきて貰いました。一つ一つ丁寧に銀行・証券会社等に連絡をとり、残高証明書等を取り寄せて遺産の把握に努め、相続財産の全部を調査することができました。調査段階から税理士に参画してもらい、相続税の概算額を計算してもらうなど依頼者孫和男が安心して進める事ができるように配慮させていただきました。
(借入銀行との調整)
亡くなった方に銀行などからの借金がある場合、たとえ亡くなった方が遺言書を残されていたり、相続人間で遺産分割をして、特定の相続人のみが財産を相続することになっても、借金については、法定相続分に応じて各相続人が負担することになります。このため、この負債についても、財産を相続した特定の相続人が負担する事とするためには、借入先銀行との調整が必要となります。具体的には、借入先銀行の同意を得て、他相続人が負担する債務を、財産を取得した特定の相続人が引き受けるという契約を締結することになります。
しかしながら、借入先銀行には、この相続人間で取り決めた債務の引受け契約には、同意する義務はないのです。しかしながら、借入先銀行に同意して貰わなければ、財産を相続しない他相続人が負債だけ相続することになり、不合理な結果となります。
当プラザが借入先銀行との調整のお手伝いをいたしました。無事借入先銀行の同意が取れ、孫和男が単独で負債を返済していくことができました。
(遺言書の記載内容が不十分)
被相続人・遺言者香苗さんの残した遺言書は、記載内容が不十分であり、遺産の特定ができませんでした。また、この遺言書には、「孫和男に相続人として託します。」との記載があり、これの解釈として、「孫和男にすべての財産をあげたい」趣旨なのか、それとも「財産の相続方法を孫和男に託したい」のか判然としません。
しかしながら、生前の被相続人香苗さんと孫和男との関係、孫和男が被相続人香苗さんの面倒をみており、生前より被相続人香苗さんは孫和男に財産をあげたいと周囲に伝えていたなどの理由により、素直に孫和男にすべての財産をあげたいという様に解釈するのが相当だと考えました。
また、有名な判例(最高裁昭和58年3月18日判決)でも、遺言書の解釈方法について次のように判示しています。
「遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、 遺言者の真意を探究すべきであり、(略) 形式的に解釈するだけでは十分ではなく、 遺言書の全記載との関連、 遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究して趣旨を確定すべきであると解するのが相当である。」
(遺言執行者の定めがない/遺言の執行ができない)
遺言とは、亡くなった方の意思を尊重して、法定の相続とは異なる相続方法であってもこれを認めようというものです。また、遺言執行者とは、遺言者が残した遺言の内容を実現する実務を行う法定の機関であり、法律上は法定相続人の代理人とみなされます。遺言執行者には、遺言書にて指定されるか、家庭裁判所の審判を受けてなることができます。
遺言は、一部例外を除き、通常は、遺言者が亡くなった時に効力が生じます。遺言は、法律上の相続方法とは異なる内容であることも認められるので、例えば、妻、子がいる人であってもすべての財産を菩提寺に遺贈(遺言により財産を贈与すること)することもできます。この例で遺言執行者がいない場合に実際に財産を菩提寺に贈与するといったような事実上・法律上の行為(例:預金を払い戻して菩提寺に渡す、不動産の名義を菩提寺に変更するなど)をする義務を負うのは誰だと思いますか?答えは、法定相続人である妻、子なのです。妻と子は、財産を相続できないのに、菩提寺に財産を移す行為だけはやらないといけないのです。これでは非協力になるのもしかたないですね。
今回の遺言書には、孫和男に財産をあげたいと解釈しましたが、「孫和男に託します」という解釈が「孫和男に財産をあげます」という解釈になることを実際に各手続き先に伝えるのは、遺言執行者の指定がされていないので、法定の相続人である孫和男,孫洋子です。また、実際に各財産の相続手続きを行うのは、法定の相続人である孫和男,孫洋子の二人なので、孫洋子の協力が仰げない今回のケースでは、遺言の執行が頓挫してしまいます。
そこで、当プラザにて、家庭裁判所に当プラザ司法書士を遺言執行者の候補者とする「遺言執行者選任審判の申立て」を行いました。時間はかかりましたが、無事当プラザが家庭裁判所から遺言執行者に選任審判を受けられ、遺言執行者として就任しました。
前述のとおり遺言執行者は、相続人の代理人と見做されるため、遺言の解釈について各手続き先に伝えるのも、遺産の手続きをすることも孫洋子の協力を仰げない場合であってもできるようになりました。
結果
遺言書は、重要な物なのですが、言ってみればタダの紙切れです。遺言者が亡くなった後にその内容が実現されて初めて意味があります。遺言書は、遺言書の内容を実現(遺言の執行)ができて初めて意味があるのです。このため、遺言書の解釈に疑義がなく、遺言執行者の指定をしておくなど、手続き上も支障が無いように適切に記載して作成することが大事です。
この記事を担当した司法書士
トラスティ藤沢司法事務所
代表
山脇和実
- 保有資格
司法書士、宅地建物取引士
- 専門分野
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相続・遺言・生前対策・民事信託・不動産売買
- 経歴
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司法書士事務所での10年の経験を経て独立し、トラスティ藤沢司法事務所の代表を務める。「相続は、亡くなった方の思いを推し量ろう」、「相続は、和をもって尊しとなすが大事」、「完全無欠な平等は不可能、遺産分けは互譲が必要」をモットーに、依頼者の内にある悩み要望を推し量り、顧客満足に繋がるよう努めている。また、勤務時代を含めて担当した相続・売買案件は3000件以上に上り、相談者からの信頼も厚い。